大阪高等裁判所 昭和28年(う)2082号 判決
原判示事実は、原判決の挙示する証拠によつてこれを認定するに十分である。弁護人は、被告人と巻島伊之右、黒沢敬之助、失野栄作等三名との間の契約は、右の三名が被告人の為す旅館営業のために出資を約し、その営業から生ずる利益を被告人が四分、出資者三名が六分の割合で分配することを約した匿名組合契約であつて、上記三名の出資は営業者である被告人の財産に帰属しているのであるから、右出資の目的物である本件の建物を売却して得た金員は被告人の所有に属し、従つてこれをどのように処分しても橫領罪にならないと主張するについて案ずるに、前記の証拠によると、被告人は右の巻島、黒沢、矢野三名から全部出資を受け、同人等の委託によつて被告人を営業者とする旅館業を経営することになり、自分の名義を以て本件の土地建物を買い取り、旅館業を始めたが、営業不振のため、場所を変えてもつと小さな家屋と買い替え代金の差額を運転資金として旅館業を継続する趣旨の下に、右の土地建物を代金百五万円で売却し、他の家屋を代金四十二万円で買い取り、その差額の金員を保管中、前記三名の出資者の承諾を得ることなく、右の金員を、旅館業とは全然関係のない他人の事業や、自分の親族のために貸与したことが明らかである。そうすると、被告人の保管する金員は、前記三名に対する関係においては、自己の占有する他人のものに該当するから、これを右の三名の承諾を得ることなく、委託の趣旨に反して他人に貸与するときは、横領罪を構成すると解するべきである。原判決の見解は正当であつて、記録を精査しても原判決に所論のような違法はないから論旨は理由がない。